Dec 8, 2017

te



g a l e t t e  d e s  r o i s
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ガレット・デ・ロワ


ひとりは特別でもなく、贅沢でもなく、ごく普通に必要なものを食べる事が難しくありました。
もうひとりは食べられない物があっても他の物を使って満足できる食事がつくれないかと考えはじめました。
いつか二人は離れる事になり、もうひとりはひとりの為に食事をつくることはなくなりました。遠くの国へ。
見送ったその時の、後ろ姿をもうひとりは忘れていません。

思いもしなかった日に、ふとした時間に、もうひとりの場所にひとりが訪ねてきてくれました。
ふたりが会っていた場所はなくなっていたのに会えたのです。
ひとりは花を沢山渡してくれました。
ひとりはまだ必要なものが食べられませんでした。もうひとりは必要なものの代わりをひとりから受け取って食事をつくりました。
その瞬間、もうひとりは代わりではなく食べてもらいたいものをお皿に盛りつけることができませんでした。
ただ、それは食べられるものではないけれど、
音があるのに静かで、薄明るくて、うっとり染み込んでくるような時間がその時流れました。
それがもうひとりの料理でした。

「不思議な時間をつくりたい」

必要な時を必要な時にその人へ。
つくれる身体と軽やかさがほしい。
もうひとりは今でも自分を突き動かす沢山の記憶をもっていたのです。

届けてくれたガレット・デ・ロワが思い出させてくれた事。






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M o r n i n g  g l o r y
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朝顔


少し前の事。晴れた空に雨が降っていた。その日の朝に朝顔は咲きました。
それは随分嬉しい事でした。お皿と同じ色の花。

もし絵を描いていたなら、自分で咲かせた花の絵は、咲かせていない花の絵とは違うでしょうか。
外見をなぞるより前に知っている花のこと。
昔のいつかの日誰かが自画像を描いたのは何故でしょう。
これは逆の想いです。描く方ではなくて描かれる方の。差し出す方ではなくて受けとる方の。

入口の硝子のドアに足場の階段を上る影が映る。

あっという間に景色も気配も変わっていきます。私はここから眺めているだけです。

「野ばら」という手芸店が閉店しました。
そこで最後に買った羽根と、それと硝子のビーズで宵の実の今年のクリスマスささやかに。
一緒に買ったリボンはアントルメ選集にかけます。